介護報酬はどうして低いのか

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では、介護業界はどうして平均賃金が低いのでしょうか。

介護報酬が低く、報酬内で事業運営をするため、給与を引き上げる余裕がない、というのが根本的な問題です。

わが国では介護は家族が担うのが一般的でした。それを介護保険制度によって「介護の社会化」を目指しました。

もともと家族=無料だったものを、制度を作り「有料」にしたため、介護報酬を医療報酬レベルに設定するのは難しかったのかもしれません。

介護に携わるスタッフへの社会的な評価が低い要因の一つもそこにあります。

そのため、経営者の中には「低賃金で構わない」と思う人も多いようです。

これは介護福祉士や社会福祉士が、同じ国家資格でありながら医師や看護師、薬剤師などに比べて歴史が浅く、医療職のように救命に直結しない、という点で医療関係団体が福祉関係団体より優位という構造が成り立っているのと無縁ではないようです。

こうした待遇の低さに加え変則的な勤務が多いため肉体的負担も高く、その結果が離職率の高さに表れています。いまやあらゆる介護職において、有資格者・無資格者を問わず極めて短い期間で離職する人の数が全国的に増加しつつあります。

これこそが今の介護業界が抱える大きな問題であり、早急に解決しなければならない課題でもあります。

「給与水準」の低さと「離職率」の高さ

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一説によると10兆円ともいわれる介護市場ですが、少子高齢化に伴い業界規模は年々右肩上がりで上昇しています。

今後も成長が期待される業界であることは間違いありません。

介護には利用者の自宅など介護を行う「在宅介護」と、特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)をはじめ介護老人保健施設、有料老人ホーム、認知症グループホーム(認知症対応型共同生活介護)などの「施設介護」があります。

前者は主にケアマネージャーやホームヘルパーが業務に当たり、後者は介護職、相談員、ケアマネージャーなどが中心となり、施設により看護師、理学療法士や作業療法士などのセラピスト、栄養士、調理師らが業務に当たるケースもあります。

介護業界は他産業に比べると「給与水準が低い」といわれています。厚生労働省による「平成21年賃金構造基本統計調査(全国)」によると、一般労働者の平均賃金は、男女計29万4500円(平均41.1歳、勤続11.4年)、男性32万6800円(平均42.0歳、勤続12.8年)、女性22万8000円(平均39.4歳、勤続8.6年)となっています。一方、介護労働安定センターが発表した「平成20年度事業所における介護労働実態調査結果」によると、介護労働者の所定内賃金は、

■平均月給 21万6489円
■平均日給 8077円
■平均時給 1121円

となっており、給与額は明らかに低いことがわかります。しかも不思議なことに、経験1年未満の平均月給と、経験10年以上のベテランの平均月給が、それぞれ19万9996円と22万7271円とさほど変わりません。

介護業界では女性が多く、また正社員率が低いことも平均賃金が低く抑えられている原因ともいえます。これでは一生の仕事と考えると躊躇してしまうのも無理はないかもしれません。

コムスン事件に見る介護業界の「明」と「暗」

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高齢化が進む日本。その中で当たり前のように「介護」という言葉は使用されていますが、1980年代に「介助」と「看護」をあわせて作られた言葉です。

そう考えると介護の歴史は、わずか30年に過ぎません。

2000年(平成12年)4月にスタートした介護保険制度は国民に介護保険料の負担を求め、社会福祉の対象者・サービス提供・費用負担のあり方を見直し、介護福祉事業の一般化・普遍化がスタートしました。

それまでは民間企業が参入していることは少なく、またごく一部の企業にしか認められていませんでした。

ですから介護のサービスを提供していたのは主に社会福祉法人が中心でした。そのため市場原理が全く働かず、狭くて閉鎖的で非常に特殊な業界でした。

介護保険制度が始まり民間企業が参入してから介護業界は変わりしました。有料老人ホーム、グループホーム、デイサービス、訪問介護ステーションなどが、まるで雨後のタケノコのように誕生し、その数が全国で数千社に達したそうです。

しかしその反面、高齢者を死こさせる事故が発生したり、不正請求する業者が統出したりと、世間を騒がせる事件が発生しました。

介護業界最大手の事業者だったコムスンが、悪質な不正の発覚により廃業に追い込まれたのが象徴的な例です。

介護保険制度では、介護サービスを提供して介護報酬を得るためには都道府県から「指定」を受け、5年ごとに指定を更新しなくてはなりません。

ところが、コムスンは雇用していないホームヘルパーなどが実在しているように見せ介護事業所の指定を受けていました。

コムスンは悪質な不正が組織的、継続的に行われていたとして、2007年(平成19年)6月6日、「指定打ち切り処分」が下されました。利用者数と介護報酬額の確保などについて、現場責任者らに厳しいノルマを課していたようです。

ノルマの中には人件費を抑えるといった内容も見られ、ノルマ最優先、利益優先のやり方であったといわれています。

こういった環境にあって、最も苦しんだのは現場の社員たちです。コムスン事件は行き過ぎた効率化や利益追求が生んだ弊害といえるでしょう。